2011年08月03日

忘れられない〔6〕


いつもおしゃれできれいでしっかり者の母が、この頃ちょっとおかしな行動をとるようになって……。
とても心配しているんです。

母は満州で娘時代をすごし、日本が戦争に負けて引き上げてくるときの話を私によくしてくれました。
私は何度かその話を聞かされていましたが
若い頃はただ(大変だったんだね〜)と思って聞いていました。
今、母に介護度がついて改めて思うことは
本当に(母がいるから私がいる……)ということです。
母は……
母は満州から引き上げる時、自慢の黒髪をバッサリ切って
娘の格好からボロボロの男の服に着替え
見ただけでは「女」とわからないようにして
荷物も持たずに日本に逃げ帰って来たんです。
母は直接戦争には関係なく、家族で満州に開拓に来ていただけなのです。
まだ若かった母が「男」の格好で危ない場面をいくつもすり抜けてくれたから
私がこうやっているんです……。
今度、この話を
私から母に
してみようかと思っています。

「お母さん、ありがとう」

  

Posted by よっといでん  at 20:34忘れられない体験談

2011年07月27日

忘れられない〔5〕

あれはワタシが結婚してからの事。
ワタシは趣味で山で鉄砲を撃っていた。
休日になるとウサギや山鳩を撃ちに行っていた。
その日も散弾銃をかついで山に鴨を撃ちに入った。
水面にいる鴨を愛犬にぼわせるとバタバタバターと一斉に鴨が舞い上がる…
その一瞬を狙って散弾銃を発射すると
細かい無数の玉がバア-ッとそこらじゅうに飛び散るから
飛び立とうとしていた何羽かの鴨が玉に当たって地面に落ちてくる。
あの日も同じように深い山に入って行って
いつも通り、池にいる鴨を犬が追い立てた。
よし!
今だっ…!
ワタシは散弾銃の安全装置を外して
斜面を2〜3歩下って
銃を構えた!
……
と、その時
足が唐草にからまり、落とし穴のように深いくぼみに
「あ〜〜〜っ!」
と言う間に落ちてしまった
とっさに安全装置を外してあった散弾銃を
「こりゃいかんっ!」
とほおりなげた。
が……すでに「時、遅し」
ワタシは散弾銃の音を聞くか聞かないか……
一瞬気を失った。
が、すぐ正気を取り戻し
(こんな山奥で誰にも見つけてもらえないまま
…死んでたまるか……!)
そう思い
立ち上がって歩こうとしたが
お尻からの大量の血を見てから
下半身に激痛が走った。
(やいやい、どうにかして里に降りないと誰も助けに来ちゃ、くれん!!)
(えらいことになったぞ……)
ワタシは必死になって
山を降りた。
散弾銃に寄りかかるようにして歩いた。
右側の尻がえぐられていたから
力も入らず服は血でベタベタだったが
なんとか
やっとの思いでふもとの川べりにたどり着いて
這って行って水をゴクゴク飲んだ。
カラカラの喉の渇きがおさまったら今度は寒気で目を閉じそうになる……
「死」を覚悟しなきゃあいかんかった。
けれどね、何にも知らないでワタシの帰りを待っている家内の事を思ったら
(なんとしても家に帰り着かなきゃならん!)
意識がボワ〜となった時
愛犬がワタシの回りで一生懸命…ワンワン吠えてて……
ワタシの体をあっためてくれとった。
そのワンワン吠える声がずっと
かすかに聞こえていたんだよ。
ず〜〜〜っとね。
ワタシが寒いのを察したのか体をくっつけて
吠えててくれたんだよ…
だから意識をなくして眠ってしまわないで家まで帰って来れた。
家に着いたら
ワタシの血だらけの姿を見た家内の方が
ワタシのかわりに
気をうしなっちゃったけどね。
アッハッハ……

  

Posted by よっといでん  at 17:26忘れられない体験談

2011年07月22日

忘れられない〔4〕

「戦争でお父さんが兵隊に行ってる間
私は3人の子供を守らないと…。
子供にもしもの事があったらお父さんに申し訳ないといつも思っていた。」
今日はその「Mさん」にとって忘れられない戦争中の出来事を話します。

農家に嫁いだ「Mさん」はとても働き者です。
畑や田んぼの仕事に隣組の仕事に、病気のお舅さんのお世話もしていた。
加えて小さい3人の子供の母として朝から晩まで働いていた。
頼りにしたいお父さんは兵隊に行っていない。
お国の為に頑張っている。
ある日、いつものように子供達を家に置いて畑に行った。
家族に食べさせるイモや野菜を採るために。
畑にいたら突然空襲警報が鳴って
みるみる敵の戦闘機が迫ってきた。
バババババッ!
と機関銃の音がした!
自分のすぐそばでバババババッ!と弾が飛んできた
低い空からあきらかに「人間」を狙って撃ってきている。
畑に出て農作業をしている人に向かって撃ってきている。
バババババッ!
そこらじゅうで土煙が舞っている。
こんなとこでじっとしゃがんでたら
撃たれてしまう!
私がここで死んだら子供と爺さんの世話は誰がする…!
ここで死んだら兵隊に行ってるお父さんに申し訳ない…!
とっさに
私は頭にかぶってたミノ傘をほどいて
思いっきり遠くに投げた。
(敵は上からこのミノ傘を狙って撃っている!)
そして私は傘の飛んでった方とは反対側に走って逃げた。

何度もその話しを繰り返す「Mさん」
だんだん
その場にいない私が
「Mさん」になってゆく…
冷静に判断して
機関銃の恐怖に負けることなく機敏に逃げて
穴ぼこに身を隠し、B29が通り過ぎるのを待った。

…思いっきり遠くに投げ飛ばしたミノ傘を狙って敵は撃つ…

あれから60年…。
畑仕事で鍛えた丈夫な足腰が「Mさん」の自慢です。
とても小さな体ですが
「痛いとこ…?ないよ。どっこもイタないよ……」

  

Posted by よっといでん  at 18:50忘れられない体験談

2011年07月21日

忘れられない〔3〕

もの静かで博学でそれでいて謙虚な「Kさん」
デイではいつも新聞に目を通し、家では歴史書を読まれる。
そんな口数の少ない「Kさん」がポツリポツリと私達に語った話しだから余計に忘れられないんです……

兵役を終え満州から帰ってくる途中
どこだったか場所は覚えとらんが
帰り道、列を組んで進んでいた
その時ワタシは馬に乗っていた
そしたらどこからか
「助けて…助けて…」と子供の声が聞こえてきた
(これは大変だ)と思い声のする方を見たら
4〜5歳くらいの子供が道端で泣いていた
ワタシは列から抜け子供の方に駆け寄った
回りに大人はいない
小さな子供ひとりだけがこんな何もない道端で泣いている
見たからにはほっとけないし
こんなとこには置いとけない
ワタシは馬から降り、手持ちの紐でその子を背中にしょった
そしてまた隊列に戻った
……
ワタシはね…
そのおぶった子を途中で降ろしちゃったんだよ……
ちゃんとその子に「家」の場所を聞いてそこまで送ってあげればよかった……
ワタシも行かねばならんかったし
「ここでいいか?」
と聞いたら
「いい…」
と言ったような気がしたから、降ろしたような気がする……
ただ、今、思うとあの子を家まで連れて行ってあげればよかった……
………
子供の、背中のぬくもりがだんだん冷めていったんですね………
4〜5歳の子供を知らない町で降ろしてしまったことを後悔されている「Kさん」の目に
今日の新聞の一面記事は
どんな風に
映っているのでしょうか…
  

Posted by よっといでん  at 17:58忘れられない体験談

2011年07月19日

忘れられない〔2〕

わしの村は当時「夜這い」が流行っとってな
わしの回りはみんな夜這い経験者だった
わしもこりゃ出遅れちゃいかんと思って
となりの村に商売屋の娘でべっぴんで頭もいい評判の器量良しがおって
わしゃ、その娘がよくてよくて仕方がなくなってある晩「夜這い」に行ったわけだ
当時は女のほうも心得たもんで自分もいい人がおったら
夜中にそ〜っと裏窓を開けておくわけだ
ほりゃ、うちのもんに見つかったら怒鳴り帰されるでね…
わしもひょっとして、こりゃ脈があるかな〜と思って
意を決して娘のうちに夜這いに行った
そしたら
まあ、度肝抜かれたわぃ!

裏口が開いとったで(こりゃしめたわい!)
と、そ〜っと上がって行ったら
なんと、「先客」がおってな…
わしゃ、終わるまで暗闇にじ〜っとしとった

ね〜「Hさん」
みんな知ってるよ
その時の恋にこがれたべっぴんさんが
「頭の一生あがらない器量良しの恋女房
なんでしょ(^w^)
  

Posted by よっといでん  at 17:18忘れられない体験談

2011年07月18日

忘れられない〔1〕

いつもの昼食後の何気ない談話にて〜
利用者「Kさん」が語ったある出来事がとても印象的だったのでここに要約いたします。

終戦間際の満州
そこで私は一生忘れられない光景を見た
直接自分には関係のない事ではあったが
それが記憶からはがれない
それは、引き上げ者の群集の中
私のすぐ隣りに
女性と軍人さんぽい男性がいた
ふたりは夫婦か恋人のようにしっかり寄り添っていた
そこにボロボロの格好をした男の子が肩で息をしながらあらわれて
「おかあちゃ-ん!、おかあちゃんをボク、ずっとさがしていたよ…。
ボクと一緒にいて…。
ボクも一緒におかあちゃんについていきたい…」
と泣きじゃくりながら母親に訴えたのだ
当時の私はまだ女学生であったが
それでも男の子と母親、そして軍人さんの関係は理解できた
ああ…この子は出て行った母親を必死に探して
やっとみつけて
ギリギリまでおいつめられてここに来たんだ…
この子はおかあちゃんが大好きで離れたくないんだ…
ここで離れたらもう二度とおかあちゃんには会えないんだ
すぐそばにいた私は胸がぎゅんと熱くなり
母親の動向を
待った……
母親なら我が子を涙流して抱きしめるだろう…
子供のためにもそうあってほしいと…
なのに
私が見た母親は
母親は…男の子を
突き放した……

今頃になって、
その男の子がどうなったのか
とても気になって仕方がない
家に帰ったんだろうか…
その後の男の子の記憶はない
今、私のできることは…
男の子のあの時の勇気とその後の幸せを
「祈る」ということ……

  

Posted by よっといでん  at 21:19忘れられない体験談

2011年07月15日

昔はね……

…………
私は海のそばで育ったから
昔は「カッパのきぃちゃん」と呼ばれていたよ
友達と沖の方まで泳いで行って
漁船がとおると友達と「死んだふり」するの
ぷかんぷかん〜と波に浮かんでね〜
そうすると漁師さんがあわてて助けに来て……
漁師さんが舟に引き上げようと手を伸ばした、ら、
くるっと向きを変えて
「あかんべ〜」して泳いでもどるの
楽しかったよ……
子供の頃はこんな遊びばっかりやってた
えへへ
子供の頃は、私は
「カッパ」だったからね……
お休みなさい。3時になったら起こしますよ……
  

Posted by よっといでん  at 20:34忘れられない体験談

2011年07月14日

あなたとわたし、いつまでも・・・

ええと、あの人、なんて方でしたっけ?
わたし、名前すぐわすれちゃって……
いつもここに座る人、
誰でしたっけ?
そうそう、その方
今日は来ないの?
あらま、お休み?
どうされたのかしら?
いつも来る人が来ないと淋しいわ……



ええと、あの方、お名前すぐわすれちゃって……
ここにいつも座る方
娘さんが一緒の……
そうそう、その方
思いだしました。
今日はお休みですか?
まだ来てないようですね?
いやあ、いつもいる人が見えないと、あれ?どうしたのかなあ〜と思うでしょう?
ああ、
今日はお休みですか
わかりました



あら?
今日は珍しくあの方がみえてませんね……
どうかされたんですか……
いつも……



いつも隣に座る人だから
今日、いないと
本当に淋しい

何回も何回もいない方の安否を訪ねる
何回も何回も
お元気でしょうか?と。
「今日は私が…あなたの横に座ってもいいですか…?」
  

Posted by よっといでん  at 21:11忘れられない体験談

2011年07月08日

故人を偲んで……

桜今日、よっといでんでとても素敵な偶然がありました。
利用者さんの殆どは青木町によっといでんがあった頃からのお得意様です。
けれど利用者の「Sさん」は西山に移転してから、よっといでんとご縁ができ、来ていただいている方です。
なので青木のよっといでんは知らない方なのです。
その「Sさん」と青木のよっといでんしか知らず、新しいよっといでんに来ることがかなわなかった「Uさん(故人)」が
なんと
なんと
いとこ同志とわかったのです
きっかけは朝の送迎車の中。スタッフと「Sさん」の何気ない日常会話で……
よっといでんに到着するなり古いアルバムを引っ張り出して、私達は
在りし日の「Uさん」を探しました。
「あっ、Uさんだ!」
そこには静かに微笑んでいるダンディーな「Uさん」がいました。
めくるページ、めくるページに「Uさん」が笑っています。
私達は「Uさん」から教わったことがいくつもあります。
その1つに
例えば「私は○○が嫌いです。」
と言うのではなく
「私は○○が苦手です。」
もしくは
「得手ではないのです。」
という言い方です。
そこには日本古来の奥ゆかしい…相手への心配りが感じられます。

そして私達の脳裏の奥底に知らないうちに焼き付いていた「Uさん」の軌跡……
「トヨタ自動車の本社に続く道沿いの桜並木は
実はわし達が植えたんだよ……」
桜桜桜
「Uさん」…あなたの植樹した桜並木は今でも春になると
……泣けるほどきれいですよ
「Uさん」達が桜の苗木を何百本も植えた頃は
こんなにも車が通るなんて思いもしなかったでしょうね……
年々多くなる排気ガスにも負けずに
しっかりとたくましい根を地中深くに下ろしています。
その話しを聞いてから私達は国道248を通るたびに「Uさん」の笑顔を思い出すのです。
春になり桜並木が満開になれば
私達は誇らしい気持ちにもなるのです。

知ってますか…?「Uさん」
あなたの桜には届きませんが
私も桜並木の話しを聞いてから
毎年一本ずつ
自宅の小さな庭に「木」を植えるようになったんですよ。
ゆず
ブルーベリー
シ-クワ-サ-
そして木香茨(モッコウバラ)
「Uさん」聞こえていますか〜?

私もいつか孫やひ孫達に「おばあちゃんが植えたブルーベリーはおいしいね〜
と言わせたいです。
  

Posted by よっといでん  at 19:20忘れられない体験談

2011年07月07日

雨の七夕さん……

今日は七夕
一年に一度しか逢えない織り姫と彦星
思ったとおり
朝から雨……
(ちょっと嬉しいのは私だけ?
さて、よっといでんの七夕飾りはどうでしょうか〜
見て下さい!
「若返りたい」だの「5キロやせたい」だの「サマージャンボに当たりたい」だの〜
重すぎるスタッフの願いで床に垂れそうなほどです!
静かな窓際で色とりどりの短冊や笹飾りがゆらめいています
その中にこんな短冊がありました。

「七重八重 花は咲けども 山吹の…実のひとつだに なきぞかなしき」

その歌を書いたのは利用者の「Sさん」
「Sさん」は視力が弱くいつも自宅ではラジオを聴いており
「ラジオを一生懸命聴いていても、すぐに忘れちゃう〜」と笑って話されます。
「すぐに忘れるわ(笑)」って……自分の事を年寄りの健忘症だと笑うその言葉と
「Sさん」が持参のルーぺを使って黙々と書き上げた一片の短歌と……
一瞬、私の中で時が止まった気がしました
ね、「Sさん」。女学生時代に覚えた事はずっと忘れないんですよね。
その短歌の意味がまた素敵なんです。

作者:兼明親王(かねあきらしんのう)
武将:太田道潅(おおたどうかん)
先ほど調べてみましたが意味は「Sさん」の言うとおりでした。
「雨がざあざあ降ってる日に、ある立派な武将が山奥の一軒の家にミノを借りに行くんだわ。
そしたら女の人が一人で住んでいて、自分のうちにミノが一つしかない。だから貸せないわけ。
それ貸しちゃったら自分のが無くなるから困るでしょ?
でねぇ、七重や八重に咲く山吹っていう花は実をつけないんだって。
女の人はそのことを知ってたわけ。
そこで女の人は、実はないってこととミノはないってことを掛けた句を詠んで、そおっと山吹の枝を差し出して…
お侍さんに帰ってもらったっていうおはなし

私が80になった時
こんなにもイキでジンとする言葉を記憶していて、すらすら書けるでしょうか……
私が80になった時「Sさん」みたいにありたいと……
そう七夕さんに「願」、かけました。
あ…何だっけ!?
あ…思いだせん?!
…あ
……?

  

Posted by よっといでん  at 16:06忘れられない体験談